鍵盤番号ミニ.jpg

2014年03月15日

低音域の弦設計

電脳調律シリーズのパートVでは低音域を扱う予定です。
下準備のためいろいろと資料をまとめていたのですが、その中から一部を記事にしてみました。

まずは低音域の特徴を改めて確認しておこうと思いアップライトピアノとコンサートグランドピアノの弦設計をグラフ化してみました。アップライトはYAMAHA U1Hで全長121cm、コンサートグランドはYAMAHA CFVで全長275cmです。
まずアップライトから。左は有効弦長のグラフです。縦軸は有効弦長(mm)、横軸は音階(A0-C8)です。縦の赤い実線は芯線と巻線の変わり目です。
弦長u1h.jpg 弦直径u1h.jpg
横軸の一番右側の最高音のC8では50mmほどですが中音域のA3あたりまではやや勢いをつけて長くなり、巻線に変わったE3以降では緩やかに長くなっていくのが確認できます。
右は弦直径のグラフです。縦軸は弦直径(mm)です。
芯線が張られている最高音のC8からF3までは1mm前後ですが、巻線に変わったE3以降では急激に太くなっていくのが確認できます。

次にコンサートグランドの有効弦長と弦直径を先ほどのグラフに重ねてみます。縦の青い点線はコンサートグランドの芯線と巻線の変わり目です。
弦長u1hcf3.jpg 弦直径u1hcf3.jpg
いかがでしょうか?高音・中音ではほとんど変わりがありませんが低音においては違いが顕著ですね。
左の有効弦長のグラフでは、最高音のC8からA3あたりまではどちらのピアノもほぼ同じ弦長ですが、CFVの場合はその後F2まで長くなり続けて巻線に変わったE2で急に短くなり、その後また長くなり最低音のA0では2メートル強の長さになります。
右の弦直径のグラフでも、最高音のC8からF3まではどちらのピアノもほぼ同じ弦直径ですが、CFVの場合はその後もF2まで1mm強で、巻線に変わったE2からは太くなりますがそれでもU1Hと比べると平均して35%ほど細いです。

アップライトもコンサートグランドも中音域・高音域ではほとんど差がありませんが、
低音域においてはアップライトの方が太く短い弦が張られていることが分かりました。

ちょっとここで音響学の基礎に立ち戻り、低音域における理想的な弦設計とはどういうことかを考えてみましょう。
楽器全般に言えることですが高音よりも低音を出すことがより大がかりな仕掛けが必要になります。低い空気振動を起こすためにはより大きくゆっくり動く振動体が必要だからです。ではピアノも含まれる弦楽器で低い振動数の音を出すためにはどうしたらよいでしょう?
パートTで学んだテイラーの公式から分かるように弦を長くする・太くする・張力を下げる、が考えられます。しかし張力を下げると音量音色とも乏しくなるので好ましくありません。ピアノ全体に掛る張力のバランスも悪くなるので特定の音域だけを変えるというわけにもいきません。どの音域でも80kg前後です。
テイラーF.png
となると長くするか・太くするかですが。。
ここで問題になるのがインハーモニシティです。調和のとれた楽器であるためには低音域の方が中音域よりも低いインハーモニシティ(理想としてはオクターブ上の音の1/4)である必要があります。ではインハーモニシティを低くするためにはどうしたらよいでしょう?
パートUで学んだヤングの公式から、弦を太くすることはインハーモニシティを強め、弦を長くすることはインハーモニシティを弱めることがわかります。ということは低音域においての理想的な弦設計とは、できるだけ太い弦を使わず弦長を長くする、ということになります。
テイラーL.jpg
コンサートグランドは全長が275cm・最長の弦が202cmなのである程度理想的な長さで低音域を設計できていると言えます。
一方のアップライトも同じく88健の音域を有するピアノですから同じ低さの振動数の音を出せなければなりません。しかしながら全長121cm、最長の弦でも113cmですから本当は長くしたいところを止む負えず太くして低い音をだしています。そのため低音域においては小さいピアノの方が強いインハーモニシティを有することになります。

最後のグラフは上の弦設計からヤングの公式で求めたインハーモニシティです。
縦軸はインハーモニシティ(¢)、横軸は最低音からピッチのラまでの音階(A0-A4)です。黒の点線は仮にA4を0.56とした場合の計算上の理想的なインハーモニシティです。
U1CF3低音インハモ.png
どうりでアップライトの低音は調律しにくいわけですね。それにしてもフルコンの曲線は見事です。

参照データ:『ピアノ技術者のためのマスターズクラス』東京ピアノ調律アカデミー
posted by 鶴田 at 23:50| 日記・お知らせ

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